日常のアーユルヴェーダ

ディナチャリア:早朝起床

アーユルヴェーダがお勧めする日課:早朝起床について。

朝起きるのが苦手な人にとっては、あまり楽しみな日課ではないかもしれません。

けれど、朝は神秘の時間なのです。
朝起きた瞬間、そこにはまっさらな一日が広がっています。

朝の時間を大切にすることは、あなたの人生の新しい1ページを大切にはじめること。だから、朝一番に自分だけの少しゆったりした時間があるといいと思うのです。

アーユルヴェーダを学び始めると、どこで学んでも、一番最初に習うのが早朝起床じゃないかと思います。それだけ大切なこと、基本的なことだという証です。一方で、やってみようと思ったときにすぐにはじめられるという取り組みやすさもあります。道具なしですぐにはじめられるますから。

では、その早朝起床についてのお話です。

アーユルヴェーダの早朝起床は早起きと何が違うの?

起きる時間の違い

アーユルヴェーダの早朝起床は起きる時間が日の出前と決まっています。

これが一般の早起きとの違いのひとつ。

ただ単に早起きする、というのであれば、
いつもは8:00起床 ➡ 早起きして7:00起床
いつもは7:00起床 ➡ 早起きして6:00起床
どれもが早起きということになります。普段起きる時間より少しでも早く起きれば、それが早起き。時間は人それぞれ、生活習慣によって変わります。

たとえば、早起きの目的が朝活で、朝の時間を有効活用しましょうということであれば、朝活に必要な時間分、いつもの時間よりも早く起きることで目的が果たせます。

さて、アーユルヴェーダ。

アーユルヴェーダの古典が勧めている早朝起床は、日の出前のある時間帯に起きること、がポイントです。いつもより早くではないのです。

「日の出前」という特別な時間に起きることに意味があるといってもよいでしょう。

目的の違い

早起きの場合、早く起きることで生み出された時間を有効活用することが目的です。

朝活が浸透して、朝の時間を勉強や習い事などに活用する人も増えました。

・朝は誰にも邪魔されないから仕事が進む
・起きてすぐは頭がすっきりしていて好きな勉強をするのに丁度いい
・朝からトレーニングに通うと身体がすっきりして一日がんばれる
などなど、それぞれやりたいことがあって、朝の時間をそれにあてるための早起きです。

アメリカ企業のトップなどが早起きしているという記事をよく見かけますが、それも、朝の時間を有効活用しているという話になります。

アーユルヴェーダの早朝起床ではどうでしょう?

古典には、「健康人よ、健康と長寿を保護するために、毎日早朝に起床しなさい」とあります。

早起きすること自体が健康と長寿を保護することになるということであって、朝早く起きて、その時間を有効に使いましょうということではないのです。

これが一般の早起きとアーユルヴェーダの早朝起床のもうひとつの違いです。

アーユルヴェーダの早朝起床は、健康維持のために日の出前に起きることを勧めているのです。

アーユルヴェーダの古典に書かれていること

日の出前とは何時のこと?

アーユルヴェーダの古典では、
日の出前の時間、
ブラフマ・ムフールタ(Brahma Muhurta)
に起床することを勧めています。

ムフールタとは時間の単位のこと。
1日の時間を30等分した1単位をあらわしています。
1日24時間=1,440分
その30分の1だから、
1ムフールタ=48分

アーユルヴェーダが書かれたヴェーダの時代、一日という時間の単位は日の出が基準でした。一日は、日の出から始まり、次の日の出までのこと。今でもインドで使われている暦では、日の出から次の日の出までを一日として、その日の性質などが決まります。

ちょっと余談ですが、イギリスやフランス北部の古代ケルトでは、日の入りから一日が始まったそうです。

朝からはじまる一日、夜からはじまる一日。共通点は太陽が基準になっていること。太陽が昇る時を起点にするのか、沈むときを起点にするのかの違いですね。

現代では、真夜中0時に日付が変わります。これは英語でcivil time=市民の時と呼ぶようです。人間の日常生活に不便にならないように定められたとか。

さて、ムフールタの説明に戻ります。

30個あるムフールタは、日の出から始まり、30個それぞれインドの神様の名前がつけられています。

早朝起床の基準になっているブラフマ・ムフールタは、30個あるムフールタのうち、日の出を起点にして二つ前の時間にあたります。

つまり、
夜明けの96分前からはじまり、その48分後までの時間帯がブラフマ・ムフールタなのです。

ブラフマは創造の神様の名前ですので、この時間は、神の時間・宇宙の時間と訳されています。
一日のなかでも特に創造性につながる時間で、世界にサットヴァ(純粋な性質)が満ちる時間とも言われていて、神聖で幸福をもたらす時間です。

人が健康であるために、長寿を全うするために、日の出前、世界の創造神ブラフマが支配するこの神聖な時間に起きることをアーユルヴェーダは勧めているのです。

ブラフマ・ムフールタに起きるのは難しい?

早朝起床として勧められる時間は日の出の96分前だとお伝えしました。大体1時間30分前だと思ってください。

さて、冬の季節、日の出が7:00だとすると、お勧めの起床時間は5:30です。
5:30起床であれば、なんとか起きられるでしょうか?

ところが、夏、日の出の時刻が5:00だとすると、1時間30前は3:30です!普通で考えると、こんな時間にはさすがに起きられませんね。
ブラフマ・ムフールタの時間は48分間ありますから、その時間内に起きることを目指すのであれば、4:15までが古典に書かれた時間内になります。

午前3:00だとか午前4:00などの時間帯に起きるのは、なかなかハードルが高そうです。

さらにここに睡眠時間の問題があります。

現代で一般的に良いと言われている標準的な睡眠時間は7時間だそうです。これに前後に幅を持たせて、6時間~8時間の間が良いようです。

さて、朝4:00に起きるとします。7時間の睡眠を確保するためには、前の日の夜、21:00に寝る必要があります。6時間睡眠の場合でも22:00就寝です。

21:00ですよ!会社から自宅にやっと帰り着いたって方も多いのではないでしょうか?22:00就寝だって早すぎると感じられる方多いと思います。

ですので、ここは少し柔軟に考えることが必要になってきます。睡眠不足を避けつつ、早起きできる時間の設定です。

可能な範囲での早起きを心がける

できるだけブラフマ・ムフールタに近い時間に起きたいものの、寝不足になってしまっては本末転倒です。

そこで、ある程度睡眠時間を確保しつつ、早起きできる時間帯を設定する必要がでてきます。

提案するのは次の2つの方法です。

1.起床時間を一年中固定する
朝6:00前後で起床時間を決めて、一年中その時間を保つ。
これだといつもブラフマ・ムフールタ内に収まるわけではありませんが、冬の日の出が遅い季節では収まります。
就寝時間は、逆算で6~7時間の睡眠がとれる時間に設定してくださいね。

2.日の出時間が特に早い5~7月とその他の月とで差をつける
例えば、5~7月は5:00前後に起き、残りの月は6:00前後に起きるなど、季節に合わせて起きる時間を変える。
夏もブラフマ・ムフールタに近い時間の起床が可能になる設定です。
この場合、前日の夜の就寝時間もスライドさせて、十分な睡眠時間は確保するようになさってくださいね。

無理な早朝起床をすることで、睡眠時間が足りなくなり、日中に眠気が生じてパフォーマンスが悪くなるのは避けたいもの。微調整しながらチェレンジしていただけたらと思います。

早朝起床を勧められる人、勧めない人

実は、アーユルヴェーダでは、早朝起床を万人に勧めているわけではありません。早朝起床が勧められる人は健康な人ということになります。

先に紹介した古典の文言。あれは、アーユルヴェーダの古典、アシュターンガ・フリダヤ・サンヒターに書かれている一節です。

「健康人よ、健康と長寿を保護するために、毎日早朝(ブラフマ・ムフールタ)に起床しなさい」

健康人よ、と健康な人へ呼びかけています。

健康ではない人、病気で体を休める必要がある人は、ここに含まれません。こうした人たちは、無理に早朝起床するのではなく、ご自身の体調に合わせて調整することが勧められます。

では、どんな人が対象とならないのでしょう?

まず、小さな子供たち。赤ちゃんから小学校入学までぐらいの子供たちは、睡眠によって大事な体の機能の発達が促進されます。大人よりも長い睡眠時間が必要ですから、早朝起床よりも、たくさん睡眠をとることが勧められます。

お年寄りや妊婦の方、病気を抱えている方なども、身体を十分に休める必要がありますから、体調の様子をみながら無理のない範囲で行うのがよいでしょう。

ただし、どの場合も、人が本来もっている生体リズムに反するような生活習慣は避けたほうがよいですね。眠ることが大事な仕事の赤ちゃん以外は、理由もなく、昼頃まで寝て夜中に起きだすような生活には注意が必要です。

早朝起床をおススメする理由

体内時計を整える

日の出の太陽を浴びることは、体内時計のリセットを助けることになり、私たちの体内時計を整えることにつながります。

詳しくはこちらの記事へどうぞ。

早朝起床は世界にとってまっさらな時間

アーユルヴェーダの早朝起床について説明してきました。

毎日、日の出前に起きるのはムリだなぁと思われたでしょうか?
それとも、
夏休みや冬休みなど、まとまったお休みの時にチャレンジしてみようかなと思われたでしょうか?

私も、会社勤めのころはなかなか定着するのが難しかったのですが、今、自営となって、通勤時間がなくなったことで、早朝起床を続けられています。

朝、まだ日が昇っていない時間帯の空気は、明らかに日の出の後の空気とは違います。

不思議なことに、鳥たちも太陽が昇ると一斉に騒がしくなります。

日の出前はまだ何も書き込まれていない世界。
夜の間にとった休息で浄化された、汚れのないまっさらな世界です。

澄んだ空気がぴーんとはりつめていて、すべてが息をひそめている。
新しい一日への期待に満ちた時間。

早朝、大々的に人が活動を始める前、早朝の時間帯は、空気中のちりが少ないので、空気が澄んでいるように感じられるそうです。また、空気が澄んでいるのは植物の光合成に関係があるとも言われています。

日の出前の時間帯、植物たちは日の出をまって力を内部に蓄えています。

日の出とともに花開き、光合成をはじめる植物たちが、
日の出を心待ちにしながら息をひそめている時間帯なのです。

ちょうど、
人が高くジャンプするために深くかがむように、
スタートラインに立つ短距離選手が全身に力をみなぎらせるように、
内へ内へとパワーが集中する時間。

内に秘めた力が最高点に達する日の出前、世界は大きなパワーを秘めているのに、空気はひんやりと心地よく、どこまでも澄んでいます。

この時間に起きることは、世界の新しい一日のはじまりに立ち会うこと。この時間の空気を感じることで、神聖な気持ちでその日一日をスタートさせることができます。

チャレンジできそうであれば、一度ぜひチャレンジしてみてくださいね。